モダンとクラシック、その狭間でLMが放つ色あせない輝き。

F355にLMを組み合わせた1台には、機能を起点とする両者の哲学が互いを引き立て合い、新たな存在感を生み出す魅力がある。長い歳月を共有することで調和し、90年代のフェラーリが持つ美しさを際立たせている。

 洗練された美しさを是とする跳ね馬に、自分らしい選択を加えたい。もっとも見た目だけでは、台無しだ。エレガントなスタイリングに調和しながら、速さを引き立てるものでなくてはいけない。フェラーリとBBSは、1992年にスクーデリア・フェラーリへF1用ホイールを供給して以来、深い関係を築いてきた。2000年以降、ミハエル・シューマッハの5連覇を支えたことも、よく知られた事実である。
 そんなBBSの定番銘柄が「LM」だ。「ル・マン24時間耐久レース」で戦うマシンに選ばれてきたレーシングホイールを源流にもつことから、その頭文字を冠した名を与えられた。1994年の登場以来、30年以上にわたり愛され続けている理由は、LMがBBSの鍛造ホイールが持つ、性能至上主義という思想を色濃く映し出したデザインだからだ。
 いまやマニア垂涎のヴィンテージ領域に入ったピッコロ・フェラーリを大切に乗り続けるオーナーが、その足元に選んだのもこのLMである。F355との付き合いは足掛け四半世紀、LMも20年以上履き続けているという。それでも古びた印象をまったく与えないのは、両者が同じ時間を刻んできたことで、F355の官能的なシルエットとLMの端正な造形が呼応し、落ち着いた風合いを帯びはじめたからだ。走りと造形の方向性が交差することで、車両全体の佇まいは一段と引き締まっている。
 F355がまとったモダンとクラシックの狭間とも言えるデザインに、LMは驚くほどなじむ。細身のスポークがもたらす緊張感と、ピアスボルトが宿すクラフトマンシップの温度。この二つの質感が響き合うことで、90年代のフェラーリが持つ美しさは、より厚みを増し、存在感を確かなものにしていくのである。
 モータースポーツ用とロードカー用を問わず幅広いモデルに採用される「クロススポーク」は、隣り合うスポークをY字状に組み合わせた構造をもつ。これは応力を効率よく分散するための機能的造形であり、BBSの鍛造ホイールが誇る軽量・高剛性という特性を視覚的にも明確に伝えてくれる。LMに受け継がれるこのクロススポークは、F355のファストバックスタイルやリトラクタブルヘッドライト、金属製ゲートから伸びるシフトレバーと同様に、車の性格を決定づける核となる意匠である。つまり、単なる造形以上に、そのモデルの本質を語りかけるディテールなのである。
 F355にLMを組み合わせた1台が放つ魅力は、同時代に生まれながら異なる文法で設計された二つの造形が、互いの領域をクロスオーバーすることで新たな表情を得たところにある。F355は、面の張りとシャープなラインを軸に組み立て、LMは構造を露わにした緊張感で応える。アプローチは対照的だが、「機能を起点に形を定める」という姿勢は共通している。両者の間に生まれる共鳴が、このマッチングを特別なものにしている。異なる解釈だからこそ、重ねたときに説得力が立ち上がるのである。

PRICE LIST
18x8.0 ¥157,300
18x10.5 ¥168,300

BBSが「クロススポーク」と呼ぶY字形状のスポークは、LMだけでなく数多くのモデルで見られる。

スポーク外周に配されたピアスボルトが2ピース構造の採用を物語る。この個体に装着されたLMは、長いモデルライフの中で何度か登場した限定仕様で、ダイヤモンドブラックとリムステッカーがその証だ。

この個体はクラシケを取得している。すなわち、ホイールを除けば当時の姿を忠実に保っているということだ。

あえて手を入れたホイール選びに、オーナーの明確な美意識がにじむのである。

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